御衣木之縁起のあらすじ

 霊木が流れてきた。長い旅をしてきた。

 旅の始まりは、琵琶湖の西北、三尾前山(みおさきやま)の奥の白蓮華谷。そこに、誰も知らない大昔から、 一本の巨木が倒れて横たわっていた。巨木は光を放ち、空に天女が舞い、白い蓮華が降りそそいだ。

 ある時、雷鳴と風雨のなか、その巨木が流れ出した。継体(けいたい)天皇の時代であった。谷から琵琶湖に出た。

 人びとは、流れてきたこの巨木を怪しみ、突いたり切り取ったりした。

 大津の浦では、火事や流行り病の災いが次つぎと起こった。占いを立てたところ、巨木の祟りであるという。害をしなければ災いの種にはならないということだった。

 霊木は琵琶湖の南に下り(e 瀬田橋)、宇治川に入った。淀の津では光り輝きよい香りを放ってむしろ人びとに敬われ尊ばれて三カ月を過ごし、静かに流れ下った。(g 槙島)

 淀の津から淀川を流れ下って(h 渡辺橋)、海(難波の津・瀬戸内海)に出た。またも人びとはこれを怪しみ、霊木は災厄のもととされ、突き流された。さきぎきで災いを起こし、あてもなく突き流されていった。そのようにして、志度の浦に漂い流れてきたのであった

 志度の浦では、凡(おおし)薗子が、かねてより、霊木の到来を待ち望んでいた。薗子は、霊木の漂い来たことを知ると、霊木を引き上げて草庵におさめ、仏師を探し求めた。

 そこへ一人の童子が現われて、自分は仏師であることを告げた。薗子の望みが十一面観音菩薩であることを聞いて、童子はそれを一日で彫り上げた。薗子が歓び観音像を拝んでいると童子は観音を呼ぶ声に応えて姿を消した。十一面観音菩薩の化身であったという

 薗子が観音像を納める寺を建てたいと思っていると、また一人の童子が現われた。自分は番匠(大工)であると告げ、童子は分身たちとともに七日で道場を建てた

 すべての願いが叶い、薗子はたいへん喜んだ。番匠の童子もまた姿を消し、童子は閻魔王の化身だとわかった

 薗子も文殊菩薩の化身であったという。

描かれた人と場所と出来事

霊木が琵琶湖の北西、三尾前山の奥の白蓮華谷に横たゎっている。

霊木が谷から琵琶湖に流れ出す。

a 打下、 b 竹生島、 c 唐崎の松、 d 坂本

大津の浦では人々が巨木を怪しみ、突いたり切り採ったりする。

大津で火事や流行り病の災いが次つぎと起こる。

e 瀬田橋

霊木が宇治川で光を放つ。

f 宇治橋、 g 槙島

霊木が淀川下流(難波の津)で突き流される。

h 渡辺橋

海(瀬戸内海)に流れ出る。

霊木が志度の浦に漂い流れてくる。

i 房前の浦、 j 高島

凡薗子が霊木の到来を待ち望んでいて、

見つけた霊木を引き上げる。

草庵におさめられた霊木。

薗子に童子が自分は仏師であることを告げる。

仏師の童子が十一面観音像を仮屋で彫る。

薗子は完成した観音像を拝む仏師を見守る。

本来の十一面観音の姿に戻って仏師は飛び去る。

別の童子が来て自分は番匠(大工)だと薗子に告げる。

番匠の童子は分身とともにお堂を建てる。

番匠は童子の姿で飛び去る。

k 真珠島、 l 塩田